世界的に大人気な芸術家フィンセント・ファン・ゴッホ。
あなたも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。
今回はそんなゴッホの代表作《星月夜》について解説します。
《星月夜》は西洋美術を代表する絵画として有名ですが、実はこの絵画にはゴッホの謎の全てが描かれているのです。
有名な作品ですが、この絵画に描かれた「ゴッホを苦しめた苦悩の正体」を理解している人は意外と少ないように思います。
でも安心してください。
例え、あなたにアートの知識がなくても大丈夫。
今回の話を聞くだけで、あなたもゴッホの代表作《星月夜》の本当の魅力について理解できようになるでしょう。
さらに後半では《星月夜》に学ぶ「時代の過渡期に求められるもの」というテーマでアートの思考法を解説します。(この話が聞けるのはココだけ!)
それでは、世界中を魅了したゴッホの代表作《星月夜》に隠されたゴッホの苦悩の物語を一緒に覗いてみましょう。
ゴッホの《星月夜》とは?
改めて、こちらの絵画が《星月夜》です。
《星月夜》はオランダ出身のポスト印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホが1889年に描いた油彩画です。
現在はニューヨーク近代美術館に永久コレクションとして所蔵されています。
《ひまわり》に並ぶゴッホの代表作として世界的に有名な絵画です。
この渦を巻いた夜空は有名ですよね。
おそらくあなたも見たことはあるでしょう。
僕はゴッホという画家を最も表している絵画はこの《星月夜》だと思っています。
《星月夜》はゴッホが生涯苦しんだ「宗教と自然との葛藤」を描いているのです。
《ひまわり》が夢の絵画だとするなら、《星月夜》は苦しみの絵画と言えるでしょう。
ちなみにゴッホの《ひまわり》にまつわる夢と絶望の物語はこちらの記事で詳しく解説しています。
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ゴッホの「宗教と自然との葛藤」とはなんなのか?
《ひまわり》以上にゴッホという画家が表現された《星月夜》をこれから解説するので、しっかりついてきてくださいね。
ゴッホの《星月夜》を解説
ゴッホの《星月夜》の魅力を知るには、まずゴッホ自身の人生について知っておきましょう。
なぜなら《星月夜》は、ゴッホの人生が詰まった絵画だからです。
ゴッホの人生
ゴッホの人生を一言で表すと「自然と宗教の葛藤」でした。
宗教(キリスト教)を信じるべきか、はたまた自然を信仰して生きるのか…
この2つの間でもがき苦しんだのがゴッホの人生だったのです。
そんなゴッホの物語は、絵を売る画商から始まります。
しかし画商の仕事はすぐにクビになってしまいます。
その後、ゴッホは伝道師を目指しました。
ですが伝道師もうまくはいきませんでした。
また、ゴッホは様々な文学に触れており、中でもエミール・ゾラをはじめとした自然主義文学に影響を受けています。
その後ゴッホは画家になりますが、徐々に精神病に蝕まれていき、晩年は精神病院に入院することになってしまいます。
そして最期には、自分の腹に銃を撃ち、自害してしまうのです。
ゴッホ37歳、画家人生はたったの10年でした。
ゴッホは深い信仰心を持ち伝道師になったものの、周囲に理解されず、苦しみの末に画家になりました。
苦しみに満ちたゴッホは、宗教に救いを求めましたが、伝道師としての自分を見捨てた宗教に「本当に信じられるものなのか」という疑問を生涯にわたって抱き続けたのです。
ゴッホはその悩みの中で心の拠り所を自然に向けるようになります。
これが宗教と自然の狭間で葛藤を繰り返すのがゴッホの人生です。
ゴッホの人生をもっと深掘りしたい!というあなたには、こちらの記事がオススメです。
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ポスト印象派のゴッホ
ゴッホの《星月夜》には、生涯を通してゴッホを苦しめた「宗教と自然との間の葛藤」が荒々しい筆致で表現されています。
《星月夜》はゴッホが晩年に精神を患い、フランスのサン=レミにある精神病院に入院しているときに描いた作品です。
この風景はゴッホが入院していた病室からの景色と言われていますが、実際に見た景色とは大きく異なる点があります。
というのも《星月夜》に描かれている都市は、病室からは見えないため、架空の町であると言われているのです。
この町はゴッホの故郷がモデルになっている、という説もあります。
また、現代のプラネタリウムで当時の夜空の再現すると《星月夜》に描かれている星の位置は実際の星の位置と一致しています。
しかし画面右側で大きく輝いている三日月は、実際には半月から満月の間であったことがわかっています。
さらに、画面左側に大きく描かれた全景の糸杉も実際にはない可能性が高いのです。
つまり《星月夜》で描かれている風景は、ゴッホの記憶がコラージュされているのです。
今まで見た景色を混ぜ合わせて、想像して描いたということです。
なぜ、ゴッホはこのような描き方をしたのでしょう?
それはゴッホが実際に見えたものをそのまま描くよりも、色彩や輪郭を自由に使って、自分が感じたものをより自由に表現したかったからです。
そのような理由から、ゴッホは美術史上ではポスト印象派という部類にカテゴライズされます。
「印象派」は自分の見た景色を、色彩によって表現した画家たちの総称です。
それに対して「ポスト印象派」は、その印象派を否定する形で生まれた芸術様式になります。
ゴッホが属するポスト印象派は、印象派のように「うわべの表現」にこだわるのではなく、自分の感情的な内面性を強く表現するようになるのです。
なのでゴッホも実際に景色をそのまま描きだすことに興味はありませんでした。
むしろその景色に自分の感情がどれだけ表現できるかが大事だったのです。
ポスト印象派についてはこちらの記事でも詳しくまとめているので、興味があれば参考にしてみてください。
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ゴッホと糸杉
あなたは《星月夜》で何が最初に目にとまりますか?
おそらく大きな三日月か、画面左にある大きな黒いウネウネとした物体でしょう。
実はこの黒い大きなウネウネは糸杉です。
晩年のゴッホの作品には、この糸杉が多く描かれます。
弟のテオに向けた手紙にも糸杉ついて触れています。
もうずっと糸杉のことで頭がいっぱいだ。
ひまわりの絵のようになんとかものにしたいと思う。
これまで糸杉を誰も僕のように描いたことがないというのが驚きでしかたない。
その輪郭や比率はエジプトのオベリスクのように美しい。
その緑色の素晴らしさは別格だ。-弟テオに向けた手紙より
糸杉は「死」の象徴?それとも・・・
なぜゴッホは糸杉にそんなにも心を奪われたのでしょうか?
糸杉はキリストを磔(はりつけ)にした十字架に使われた材料でもあり、しばしば「死」を象徴する木です。
もしかしたら、ゴッホは自身に死が近づいていることを分かっていたのかもしれません。
そのように考えると、糸杉がまるで地上から天界へ伸びる架け橋のようにも見えてきますね。
実際にゴッホが糸杉にどのような意味を持たせていたかは、現在の研究でも真相は解明されていません。
いまだ糸杉の謎は謎のまま沈黙を守っているのです。
《星月夜》の時代背景
《星月夜》の魅力は描かれた時代背景も関係しています。
《星月夜》が描かれた19世紀は産業革命などにより、時代の変わり目となった激動の時代です。
科学の発展などにより、人々は徐々に教会離れが進んでいきました。
しかし今まで信じていた宗教(心の拠り所)を捨てきれないという人がまだまだ多く存在したのです。
早すぎる時代の変化についていけなかったのでしょう。
そしてゴッホもその中の1人だったのです。
そうした不安の中、人々は「自然」に心の拠り所を求めるようになりました。
そしてゴッホを含め、多くの人々が「自然」に、「太陽」に、そして「星空」に神の代替物を求めていたのです。
ゴッホが悩んだように、多くの人が宗教と自然との間で揺れ動いていました。
そのような時代背景を知った時、ゴッホの《星月夜》もまた違った見え方をするでしょう。
《星月夜》の技術的な解説
次に《星月夜》の技術的なポイントを解説します。
とても感性的に描かれたように見える《星月夜》ですが、実はゴッホはしっかりと構図などを計算して描いていたことがわかっています。
ここからは、そんな技術ベースの解説をしていきます。
《星月夜》で注目したいのが、
- 色彩表現
- 構図
です。
1つずつ解説していきます。
1.《星月夜》の色彩表現
《星月夜》は全体のベースカラーを青としながら、青の補色(正反対の色)である黄色をアクセントカラーとしています。
そうすることで、お互いの色を引き立たせる効果を生み出しているのです。
このような補色による色彩表現は、ジョルジュ・スーラなどの新印象派が体系化した技術でもありました。
「ジョルジュ・スーラ?」「新印象派?」というあなたにはこちらの記事がオススメです。
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建物に小さく灯る黄色い光や、夜空に浮かぶ一番星、そして大きく輝く三日月がアクセントカラーとなっていて、青と黄色の美しいハーモニーを奏でています。
ゴッホの《夜のカフェテラス》も同じような色彩表現が使われているのが分かりますね。
2.《星月夜》の構図
《星月夜》は全景、中景、後景の3つの画面に分かれています。
教会のある町 → 中景
奥にある山と夜空 → 後景
このように全景に大きなモチーフを置くような構図は、日本の浮世絵を思い起こさせます。
ゴッホは大の日本好きで、印象派と同じくらい日本の美術に影響を受けています。
そのためゴッホは浮世絵を多数収集していたので《星月夜》の糸杉の構図も浮世絵による影響があるようです。
大胆な構図や平坦な空間表現などが日本の浮世絵っぽいですよね。
ゴッホに絶大な影響を与えた印象派についてまとめた記事もあります。
実は印象派にも日本美術が大きな影響を与えていたって知ってました?
「印象派って結局なんなの?」 もし友達にそう聞かれたら、あなたはどう答えますか? 印象派は世界中にファンがいる西洋の芸術運動であり、画家たちのグループの総称です。 日本でも大人気で、美術館で印象派展が開催される[…]
また、糸杉を画面下から上まで突き抜けるように描くことで、バラバラだった全景・中景・後景をつなぐ役割も担っています。
また、筆の動きにも注目してみましょう。
たてに伸びる糸杉と教会があり、それに対して空の横に流れるウネリが交差するように描かれています。
2つの相反するエネルギーが混在しながらも、全体としては綺麗に調和していますね。
2つの動きが宗教と自然との葛藤を表現しているようにも見えてきます。
《星月夜》と『ムーレ神父の罪』
ゴッホが影響を受けた人物にエミール・ゾラというフランスの自然主義の作家がいます。
そしてゾラの小説に『ムーレ神父の罪』というものがあります。
ゴッホは1882年にこの小説を読んでいることが、弟テオに向けた手紙でわかっているのです。
面白いのが、この『ムーレ神父の罪』と《星月夜》の共通点です。
『ムーレ神父の罪』とは一体どのような話なのでしょうか。
『ムーレ神父の罪』のあらすじを説明すると、
記憶を失ったムーレ神父はアルビーヌと恋に落ち、彼女と暮らし始めます。
ある日、「生命の樹」の下で2人で裸でいるところを修道士のアルシャンジアに見つかり、ムーレ神父は教会に連れ戻されます。
記憶を戻したムーレ神父は、罪を犯したことを知り、アルビーヌに会うことを拒むようになります。
しかし、ムーレ神父はある日悪夢を見ます。
その悪夢は、巨大なナナカマドの木に教会が破壊されてしまうというもの。
ムーレ神父は「自然」の勝利を目の当たりにし、アルビーヌを再び尋ねます。
しかし、アルビーヌはムーレ神父の子供を身ごもったまま自殺をしていたのでした。
…というお話です。
ムーレ神父が見た悪夢に、ゴッホの《星月夜》を思い浮かべてしまうのは、きっと僕だけじゃないはずです。
《星月夜》に描かれている巨大な糸杉と小さな教会はまさに、ムーレ神父の悪夢に出てきたナナカマドの木とその木に破壊される教会に思えてきませんか?
まさに宗教と自然の対立が描かれているのです。
自然を崇拝したいのに、宗教心を捨てきれない。
素直に自然を信じることができたらどんなに楽だったでしょう。
そんなゴッホの想いが伝わる文章があります。
『ムーレ神父の罪』から引用します。
今や巨大な木は星に届かんとしていた。
(中略)生命の樹は天空を裂き、星の彼方にまで伸びていった。
ムーレ神父はまるで堕した亡者のように、狂わんばかりにこの幻覚に喝采した。
教会は打ち負かされたのだ。もはや神が自分を妨げることはない。
アルビーヌのもとへ行ける。彼女が勝ったのだ。
−エミール・ゾラ『ムーレ神父の罪』
ゴッホにとって教会は「宗教」を、巨大な木は「自然」を象徴していたのでしょうか?
『ムーレ神父の罪』では「自然」が勝利したようですが、ゴッホの《星月夜》ではどちらが勝利したのでしょう?
いやもしかしたら「宗教」と「自然」という2つに分けて考えるのではなく、その2つが生み出す葛藤そのものをゴッホは描いたのかもしれません。
あなたはどう思いますか?
まとめ
ゴッホの《星月夜》に学ぶアートの思考法
現代に生きる僕らが、ゴッホの代表作《星月夜》から学べることはなんだろうか?
それは、時代の過渡期に求められるものです。
《星月夜》が描かれた時代は、産業革命により科学技術が飛躍的に進歩しました。
それと同時に今まで信じていた宗教への信仰心が徐々に薄れていったのです。
- 今まで神様を信じていたけど、本当は科学が僕らを幸せにしてくれるんじゃないか…?
- でもずっと神様のこと信じてたし…
- もう何を信じていいのかわからない…
このように人々は何を信じていいのかわからず、モヤモヤとした不安を抱えていました。
人は心の拠り所がないと、不安でたまらなくなる生き物なのです。
それは現代に生きる僕らだって同じだと思いませんか?
ゴッホの時代は、宗教から科学信仰の時代への過渡期でした。
僕ら時代では「科学離れ」が始まっています。
今までは科学の進歩こそ人類の幸福に繋がるものだと考えられてきました。
しかし現実ではどうでしょう。
科学が進歩した結果、「AIに仕事が奪われる…!」と皆が大騒ぎを起こす始末に…。
もちろん科学の進歩により世の中が便利になることも事実です。
市場が変わることでYouTuberなどの新しい働き方が生まれることもあります。
なので一概に「仕事がなくなる」とは言えませんが…。
それでも多くの人が、なんとなく将来に不安を感じているのではないでしょうか?
これって《星月夜》が描かれた時代の雰囲気と同じだと思いませんか?
《星月夜》の時代では、人々は新たな心の拠り所に自然を求めました。
重要なのは、時代の過渡期では皆新しい心の拠り所を求めているということです。
だからこそ、これから仕事をしたり情報発信をする際は、誰かの心の拠り所になってあげることが大事なのです。
なぜなら皆が無意識に心の拠り所を渇望しているのですから。
(ゴッホの時代ではその1つの答えが「自然」だった、ということです)
心の拠り所とは色々な解釈ができますが、その1つに「自分に力を与えてくれる人」というのはわかりやすいでしょう。
- 自分の知らない知識を提供してくれる
- 習得したいスキルを教えてくれる
- 価値観を広げてくれる人
- 正しいやり方を伝授してくれる人
あなたもこのような力を与えてくれる人についていきたいと思いませんか?
つまりあなた自身が誰かに対して「力を与える側」になれば、あなたはこれからの不安な時代に求められる人材になれるということです。
だからこそ僕は「他者貢献」の気持ちを持った芸術家的教育者という生き方を提唱しているのです。
芸術家的教育者については遠藤ユウの物語をご覧ください。
これはネットの活動でもリアルの活動でも同じことです。
これからの時代の生き方の「型」なのですから。
これからの時代の生き方や活躍の仕方が、100年以上前に描かれた名画《星月夜》から学べるのだから、やはりアートは偉大ですね。
ではでは。